ミドル・シニア世代の活用から躍進に向けて人事が取り組むこと

セミナーレポート

【セミナーレポート】<br>ミドル・シニア世代の活用から躍進に向けて人事部門が取り組むべきこと~ミドル・シニア世代4,700名の大規模調査と企業事例を通じて見えてきた活用から躍進に向けてどう取り組むべきか~

2018.10.09

セミナーレポート

超高齢社会に突入し、労働力人口の高齢化も進展している日本。総務省の調べによると企業で働く人の半数以上が45歳以上、2025年には50歳以上の社員が40%を超えると予測する調査も出てきています。「人生100年時代」と言われ働く期間も確実に長くなる中、ミドル・シニア人材の“活用”はもちろん、“躍進”を促すために何をすべきか。これは企業にとって避けては通れない課題です。

そこで9月18日、パーソルキャリアは「ミドル・シニア世代の活用から躍進に向けて人事部門が取り組むべきこと」と題したセミナーを、丸の内コンファレンススクエアエムプラス サクセスにて開催しました。ゲストにお招きしたのは、サトーホールディングス株式会社執行役員最高人財責任者(CHRO) 江上茂樹氏。同社は2007年という早いタイミングで65歳定年制を導入した、ミドル・シニア世代活用の先駆者的存在です。今回は10年の中で見えてきた課題や改善点、そしてミドル・シニア躍進のポイントをお話しいただきました。また、江上氏のお話に先んじて、法政大学大学院石山恒貴教授はミドル・シニア約4,700名を対象にした大規模定量調査から見えてきたミドル・シニア躍進の実態、そして躍進を促進・阻害する要因について講演を行いました。

ミドル・シニア4,700名の調査から見えてきたこと/石山先生

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ミドル・シニアを取り巻く環境

「テクノロジーの変化は急激に加速し、それらの変化をほとんどの人間が吸収できる平均的な速度を超えてしまった。もう大半の人間が、ついていけなくなった。」――アメリカのジャーナリスト、トーマス・フリードマンのベストセラー『遅刻してくれてありがとう』の一節です。「かつてない変化の時代、企業の雇用も変革していかねばならないはずです。しかし実際のところ、“日本型雇用”は崩壊どころか強化されているのではないでしょうか。」石山先生は冒頭にそう語りました。日本企業は年功主義を撤廃し役割主義に移行したと言いながら、実態は年次管理を行っているケースが多くみられるといいます。昇進に要する期間が長く、経営幹部登用が決まるのは、だいたいがキャリア後期に差し掛かってから。それまでは経営幹部への希望を持ち、皆モチベーション高く働きます。しかし、50代に入って「役職定年」が訪れると、一転して“引退モード”になり、モチベーションが下がってしまいます。一方で、役職定年や定年再雇用といった大きな節目を経ても、モチベーション高く活躍している人がいることも事実です。一体、何がその分かれ目なのでしょうか?

5つの行動特性、そして「躍進エンジンとブレーキ」

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石山先生はパーソル総合研究所との共同調査によって、ミドル・シニアでモチベーション高く活躍している人(躍進行動している人)に、5つの行動特性を見出しました。実際に、これら5つの行動因子はジョブパフォーマンスと相関関係があることが、統計的な分析で判明しました。

また、クラスタ分析によりミドル・シニア層を5つのタイプに分類。最も多い「伸び悩みタイプ」は、5つの行動がとれていないわけではないものの、全体的に低く停滞しているタイプです。ただ、このタイプと、5つの因子をバランスよく備えた「バランスタイプ」は、それほど大きな差があるわけではないとのこと。伸び悩んでいるミドル・シニアも、ほんのちょっとの改善で、会社に役立つ人になるという発見があったというのです。

では、どうすれば伸び悩みタイプの人を躍進させられるのでしょうか?石山先生は「躍進エンジンとブレーキ」がカギを握ると言います。「躍進エンジン」とは、躍進行動に良い影響を与える要素。「躍進ブレーキ」は、その逆で、マイナスの影響を与える要素です。石山先生はこのエンジン/ブレーキを、【上司のマネジメント行動】【職場の人間関係】【研修・カウンセリング】【個人のキャリア意識】の4つの領域で設定・説明しました。

自走するためのキャリア

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人間、いくつになっても成長することができる。それを示す具体事例として、石山先生が紹介したのは、岐阜県中津川市の加藤製作所の事例です。同社は金型の絞り加工で高度な技術を持ち、航空機にも部品が採用されています。加藤製作所は2001年、「定年はもう一つの新卒」として、60歳以上の人材を積極募集。シニア人材活用の良い事例として、他社に影響を与えています。その影響を受けたのが、同じ中津川市のサラダコスモ社。野菜づくりに取り組む同社も、60歳以降の人材を活用しています。

「ミドル・シニア=引退」という考え方を、私たちは改めなければなりません。「今後、日本全体が老いて衰えたり、死して朽ちたりしないために、ぜひ生涯学び成長しキャリアデザインを続けて欲しい」と、石山先生は力強く結びました。

サトーグループにおける高齢者雇用の取り組み/江上氏

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「個」を大事にする企業、サトー

次に登壇したのは、サトーホールディングスの江上氏。2007年という早い段階で定年を65歳に延長するなど、ミドル・シニア躍進の先駆者的な存在である同社の具体的な取り組みを紹介しました。

サトーグループは、1940年創業。自動認識ソリューションの総合メーカーとして、モノと情報を繋ぐ事業を展開しています。バーコードラベルプリンタ世界シェアは2位、可変情報ラベル世界1位メーカーとして、25カ国に拠点を構え90カ国以上で販売網を広げています。

外部環境の変化を先取りし、事業を革新して成長してきたサトーグループ。お客様の現場課題を深く知る「現場力」を重視しています。つまり、社員一人ひとりの力が競争力の源泉ということ。いかに「個」の強みを引き出し、企業の成長につなげていくか。人事部門はそれをどう支えていくのか。泥臭い、地道な活動を続けている途中だと、江上氏は語りました。

定年制延長に向けた段階的な取り組み

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世に先駆けて、65歳定年制を採用したサトーグループ。その背景には、経営トップの強い意思と、他と違うことをやるサトーのエスプリがありました。「やる気があれば、いつまででも働けるように」と、まず2007年4月に定年年齢の引き上げ。次に、2011年には65歳以降の雇用更新制度「あなたと決める定年制」を導入しました。65歳以降の再雇用制度で、年齢の上限はなく、本人と会社の合意があればいつまででも働けるという制度です。また、定年に達していなくても別のフィールドで第二の人生を送りたい社員のために、早期退職制度も導入しました。ただ定年延長後も、役職定年は従来の56歳のままでした。つまり、役職定年を迎えてから定年まで9年間あるということです。これが、石山先生の言う「躍進ブレーキ」となっていました。そこで、2017年に役職定年を見直し、56歳から60歳に引き上げたのです。

同社が定年制延長とあわせて取り組んできたことはいくつかありますが、1つ大きなことは「賃金カーブの是正」です。従来は56歳の役職定年時に減額し、60歳から65歳まで段階的にに減額していく仕組みでした。これにより顕在化した課題は、50代でもう引退モードになってしまうということ。本来、50代は一線でバリバリ活躍して欲しいというのが会社の想いです。そこで2017年に賃金カーブも見直し、60歳までは減額をしないことに。50代=引退モードという意識を撤廃する狙いです。そして60歳到達時点で役割の変更を明確にし、賃金を大幅に減額。一方で管理職に認められた人は60歳以降も減額なしという賃金カーブを整えました。

また、キャリアセミナーも大幅に見直したと言います。以前のキャリアセミナーは、マネープランなど完全に「引退モード」の内容。すると「あとは65歳まで大過なく過ごそう」という意識が社員の中に芽生えてしまう可能性があります。それを今では「活躍しきるモード」に切り替えて行っているそうです。

ベテラン社員活躍に必要な「会社の視点」と「本人の視点」

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次に、江上氏は実際にシニア社員(同社ではベテラン社員と呼ぶ)のさまざまな実例を紹介しました。本人も周囲もハッピーな事例と、そうではない事例。1つ1つ異なりますが、分かれ目は会社の期待役割と本人の希望とのマッチングができていること。そして本人が自分の立ち位置を理解していることだと江上氏は考えています。

つまり、ベテラン社員活躍のポイントは「会社の視点」「本人の視点」の両面あるということ。会社としては、最適な配置や明確な役割、学び続ける機会など、「場」の提供が重要です。一方で本人に必要なのは、自分の役割を客観的に認識し、主体的にキャリアを切り開いていく姿勢ということです。その機会を提供していくことこそが、人事部門の重要な役割だと江上氏。「人事部門は、制度設計にフォーカスしてしまいがちです。しかし、大切なのは『何のための制度なのか』を忘れないこと。私も、常に立ち戻るようにしています」

今後も、会社に貢献して年下からも愛され、モチベーション高いシニア世代を実現すべく、取り組んでいきたいと、最後に江上氏は決意を語りました。

石山先生、江上氏の講演を受け、会場の参加者もグループに分かれてミドル・シニア社員躍進に向けたディスカッションを行い、質疑応答によりさらに理解を深めました。また、セミナー終了後は懇親会を実施しました。

まとめ

健康寿命が延び、“現役時代”が長く続く今。「60歳以降は老後」という概念は既に過去のものです。70歳まで働くとすると、役職定年から10年以上は現役ということ。では、その10年超を、やりがいを持って過ごすか、暗澹たる思いで働くか。これは大きな違いであり、日本全体のムードに影響を与えかねません。モチベーション高く働くミドル・シニア世代を増やしていくことは、企業に課せられたミッションとも言えます。今回、石山先生の調査結果からはミドル・シニア躍進のためのヒントを、江上氏のお話からは先駆者としての具体事例と人事が持つべき視点を、得ることができました。

講師プロフィール

法政大学大学院 政策創造研究科 教授
石山 恒貴 先生

一橋大学社会学部卒業、産業能率大学大学院経営情報学研究科経営情報学専攻修士課程修了、法政大学大学院政策創造研究科政策創造専攻博士後期課程修了、博士(政策学)。NEC、GE、米系ライフサイエンス会社を経て、現職。
越境的学習、キャリア開発、人的資源管理等が研究領域。人材育成学会理事。
主な著書:『越境的学習のメカニズム』福村出版、2018年、『パラレルキャリアを始めよう!』ダイヤモンド社、2015年

サトーホールディングス株式会社
執行役員 最高人財責任者(CHRO)兼 北上事業所長 江上 茂樹氏

東京大学経済学部卒業後、三菱自動車工業株式会社に入社し、工場の人事・労務に配属。2003年のトラック・バス部門分社に伴い、三菱ふそうトラック・バス株式会社へ移籍し、人事全般を担当。途中、CEOアシスタントを経て、人事・総務本部組織戦略部長、開発本部開発管理部長、人事担当常務人事・総務本部長(兼ダイムラートラックス・アジア人事責任者)を歴任。2015年11月サトーホールディングス株式会社最高人財責任者(CHRO)に就任。2017年4月より北上事業所長を兼務。

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