【セミナーレポート】ダイバーシティを実現するためのHRアナリティクス~イノベーション文化に変革するために~

セミナーレポート

【セミナーレポート】<br>ダイバーシティを実現するためのHRアナリティクス<br>~イノベーション文化に変革するために~

2019.03.08

セミナーレポート

人事の現場で急速に認知を高めているHRテック。
なかでも注目を集めているのが、HRアナリティクス(効果的な人事管理のために多様なデータを駆使する人材分析)です。
HRアナリティクスを活用することで、人事課題に対して従来にはなかった発見や解決手法を提示できる可能性があり、
今後実践する企業が増えることが予想されます。
しかし、データを活用・分析するといっても具体的にどのような点に着目して何をすればよいのか、
あるいは自社での活用イメージが浮かばないという企業・人事部門の方も多いのではないでしょうか。

そこで、去る1月21日、「ダイバーシティを実現するためのHRアナリティクス~イノベーション文化に変革するために~」をテーマに、パーソルキャリア主催の特別セミナーを行いました。講師にお迎えしたのは、名古屋大学大学院経済学研究科 准教授 江夏幾多郎氏。これからの時代に求められるHRアナリティクスや人事管理制度について、学術的な面を交えて解説いただきました。また、HRデータ活用を実践されているパナソニック株式会社 リクルート&キャリアクリエイトセンター 佐藤仁史氏より、人材の性格や価値観などの資質に着眼したダイバーシティ考察についてお話をいただき、多くの気づきが生まれるセミナーとなりました。

分析思考の人事(≒ピープルアナリティクス)と情報技術 / 江夏氏

HR技術が進めば進むほど人事スタッフのコンピテンシー・素養が問われる

セミナー風景

冒頭で江夏氏は、機械による「分析」と人間の「直感」という2つの要素について解説をしました。
「“分析思考の人事”と題しましたが、逆に言うと分析ではない、つまり人間としての“直感”という要素も忘れてはなりません。分析が直感を研ぎ澄ます、あるいは直感の積み重ねによって分析すべき事項が明らかになる、という相互関係も成り立つわけです。したがって、分析を可能にする情報技術は非常に有用ですが、それを利用する人事のコンピテンシー・素養が問われることになります。これは実際に情報技術を使いながら磨き上げていくことになりそうです。」

AI(人工知能)と、人事分析における「直感」介在の必要性

「AIは膨大なデータからパターンを見出せるという強みがありますが、いまだに人間の意識や思考の全体をカバーし、超越するような存在には至っていません。そうなるような明確な根拠も実はありません。確かに一部については代替が可能にはなっていますが、テクノロジー利用にあたっては、我々使う側が「人間全体」という視点を持つべきです。データ・分析は非常に重要でありつつも、人事上の判断を行う際には、人間ならではの「想い」「倫理」「勘」、そしてそれらに由来する責任感を忘れてはなりません。」と強調する江夏氏。
人間の理性によって主導される演繹、テクノロジーの計算力が強みを発揮する帰納、それらをクロスさせ、学びあうといったバランスこそが重要であり、計算をあてにしすぎると理念や組織文化を度外視した意思決定にも繋がりかねないというわけです。

統計の積極的活用と注意点

AIが組み込まれたようないわゆる「HRテック」サービスを利用せずとも、エクセルや簡便な統計ソフトを用いて、例えば「入社後の活躍度を予測する要因をSPIから探る」といった作業を人事担当者や社内人材自身が自力で行えると解説する江夏氏。それらは中学や高校、あるいは大学の教養科目程度の数学的・統計的な知識でもかなり対応できるそうです。それと同時に「日本の人事プロフェッショナルは他国に比べて情報感度が低い」という国際的な比較調査の存在も明かされました。「できるのにそのことに気づけていない」という麻痺感覚はある意味で危機的と言えます。

では、統計を用いる際に必要な視点はどのようなものでしょうか。それは「測れるものを手当たり次第測る」のではなく「何を測るべきで何は測らなくてよいか」「測りたいものをどう変数化すれば測れるか」を問うことだそうです。
「最終的に人事上の意思決定を行うのが人間であるとするならば、解明したい因果モデルはシンプルな方が良いです。モデルがあまりに複雑なら、内容が理解しきれず、本質を取りこぼす可能性があります。また、分析結果を利用するか否かについての、責任ある判断が必要になります。例えば、仮に「飲み会への参加頻度と業績評価の水準」に正の相関関係があったとしても、ダイバーシティ時代に飲み会を強制参加することはナンセンスです。」と江夏氏は語ります。

「洞察力」にみるAIと人間の差

セミナー風景

AIは現実を記号と記号、数字と数字の関係として把握するが、そうした把握が現実から遊離することがあるそうです。
「たとえば「なんとなく胃がチクチクする」という患者の曖昧な訴えに対する「AIドクター」の単純明快な答えは、患者の心情に合わない可能性があります。または,「AIドクター」は目の前の曖昧性にフリーズ、つまり立ちすくんでしまう可能性があります。AIが最適解を出せないとは言い切れないものの、我々のコミュニケーション、ひいては社会を支えてきた “直感・ひらめき・共感”、”真・善・美“が今日のAIに実装されているとは思わない方が良いです。結局は、人間側の使い方次第です。」といくつもの例を挙げて講義は続きます。
また、過去を刷新し、白いキャンバスに新しい絵を描き続けるのがイノベーションの本質という観点から見ても、過去データに基づいたAIの論理思考は企業の競争力をかえって損ねる可能性があることも指摘されました。

洞察とは何か

さらに論は「人間ならではの洞察力」へと続きます。
「戦略経営者の3つの資質「観(世界観・歴史観・人間観)/経験/度胸(観と経験による)」についての議論を踏まえると、優れた戦略的判断とされる多くの事例は帰納法ではなく「直感」を起点とした演繹法によるもので、そこにはAIのように「出力(計算結果)は入力(データ)に直結する」という意味での他律性がありません。」企業における「状況の観察=入力」と「意思決定=出力」の間には多くのノイズやカオス、逸脱が含まれていますが、それらは単にバイアスや歪みとして片付けるべきではなく、信念や価値観といった自律性のための不可欠な要素が含まれていることが解説されました。

結局、AIにどう働いてもらうのか?計算の結果をどう解釈するか?を考える際には、これらの洞察力が欠かせないというわけです。そして、経験に基づく知識(納得性)と計算に基づく知識(正確性)の双方を活かすために、人間的判断で機械的判断の不備を洗い出して更新する(ハッキング→アップデート)ことや、機械的判断を参考にしながら種々の直感的判断のうち、筋の良さそうなものを選んでゆくことといった、トライアンドエラーを繰り返す姿勢が大切であると江夏氏は説きます。

最後に、今後の人事経営で問われるべき2つの軸として「企業への貢献度」と「テクノロジーでの代替可能性」を提示し、現在の人事が抱える様々な業務が、そのマトリクスのどこにプロットされるのか。さらにはそれらの2軸をどう具体的に定義していくのか。を考える必要性が示唆されました。

水道哲学を越えた、次の100年に向けたイノベーション
~資質・価値観の多様性を活かして~ / 佐藤氏

創業100年のパナソニックがこれから進む方向性

セミナー風景

パナソニック株式会社にて「戦略採用」を担う佐藤氏。
水道哲学を越えて次の100年へ向けどう歩むか。という命題に人材採用の立場から取り組んでいます。
※水道哲学とは:松下幸之助による「良質で安価な製品を水道の水のように豊富に供給する」企業哲学

「人事戦略を「長期視点の人づくり」を基本の考え方に、発想の転換も図ってきました。その1つとして未来のビジネスリーダーを獲得・育成する「戦略採用課」を新設。日本のみならず、米/中/印などポテンシャルの豊富な人材市場を皮切りに、“世界の才覚”を獲得するというミッションを担っています。」
インドや近年の先端技術論文の投稿が目覚ましい中国への積極的なリクルーティング、日本の頭脳を海外で採用するという事例が紹介されました。もちろん、実績を上げてきた従来型の採用・人材育成もこれまで通り継続すると佐藤氏は説きます。同質的に教育を行い、スクラムを組み適材適所で分業するOperation(Optimisation/従来型)。そして、多様性のある人材が裁量をもち、摩擦を乗り越えによって生まれる付加価値を重視するCreation(Innovation/未来型)。この従来型と未来型の両輪を回すことで、次の時代へ前進していくというビジョンを示しました。

アナリティクス・フォーカス
(1)リソースマネジメント(各セクションにおける人材のバランス、偏在を可視化)

これからの100年に向けたビジョンを実現する一歩として、戦略採用課ではまずは既存のデータ(SPI)を活用して人材の可視化と育成を図ることに着手。分析を進めると、パナソニックの人材が7タイプのクラスタに分けられると判明。それぞれ直感的に分かりやすい以下のようなネーミングを設定しました。

  • 活発強引タイプ
  • 快活柔軟タイプ
  • 積極思考タイプ
  • 中庸安定タイプ
  • 堅実従順タイプ
  • 温厚受容タイプ
  • 慎重繊細タイプ

同社においては新入社員で中庸安定タイプと温厚受容タイプが増加傾向にあり、事業部門別でもこの2タイプが多いという傾向が見えてきたのです。これにより“組織における性格の質的同質性・多様性”が可視化されることになりました。

(2)タレントマネジメント(ハイパフォーマー・イノベーターの発掘)

同社は、社内に多い人材タイプがわかる一方で「活躍者(ハイパフォーマー)」や「イノベーティブな資質を持つ人材」の可視化にも挑みます。「スキルレベル(蓄積能力)とパフォーマンス(単年度の人事評価)の二軸でマトリクス化をすると、活躍者が浮き彫りになりました。同時に、活躍者に移行できる潜在能力を持った人材、つまり組織としての「のびしろ」も見えやすくなったのです。」
また、SPIデータにおける幾つかの資質特性に着目することで、「イノベーティブな資質」を有する社員が一定割合で存在することも判明。これにより従来の「イノベーティブな資質を持つ人材か否か」という人間らしいアナログな判断と組み合わせて、人事戦略を進めることが可能になりうると佐藤氏は解説します。

(3)人づくりデザイン・モチベーション(ターゲット人材設定、育成・経験の与え方)

さらに論は、7タイプの人材それぞれが重視する価値観や「やりがい」についての調査へと続きます。「マイノリティである「活発強引」タイプに“チャレンジ・創造・貢献”が、「積極思考」タイプには“チャレンジ・貢献”という価値観を重視する傾向がみられたのです。こうした分析を一つの切り口に、人材ターゲットについて検討を進めてはどうか?という議論を取り入れようとしています。さらに、性格タイプ毎に、新しい挑戦の機会を与える方が良いか、現職にて成果を創出できることを支援する方が良いか、性格とモチベーションの相関性についても検証中とのことです。

データから見る組織カルチャーの考察と創造

セミナー風景

組織成立の3要素とされる

  • 共通目的(ビジョン)
  • コミュニケーション(社内の関係性)
  • モチベ―ション

に着目して社員のデータを分析したところ、グローバル高業績企業と比べて「コミュニケーション(社内の関係性)」領域での課題を見つけることができました。創造性、革新性を高めるには「機会」「協力」「理念」がキードライバーとなることにも着目し、これらを高める新たな組織カルチャーの創造と変革をパナソニック社は模索しています。

「参加する」コミュニケーションへの転換など、関係性の変革とイノベーション創造を目指し、例として渋谷100BANCH(外部へのスペース開放)、日曜倶楽部(有志が日曜に集まり自由なモノコトづくりを行う)を実施・導入するなど、社内外を取り巻く新たな関係性の組織/コミュニティが発生し続けています。

セミナー風景

まとめ

HRテックやHRアナリティクスという、有用ではあるものの大上段になりがちで、導入に二の足を踏んでしまう技術/ツール。しかし、今回の講演からまずは手持ちのデータから実践し活用できるという気付きが得られたのではないでしょうか。また、その際に数値データ偏重にならずに、人間らしい直感や洞察を伴わせる必要性についても認識を深める講演となりました。

講師プロフィール

パナソニック株式会社 リクルート&キャリアクリエイトセンター  採用企画部 戦略採用課 課長    佐藤 仁史氏

1998年 松下電器産業株式会社(現パナソニック株式会社)入社。以来、現在まで人事部門に従事。事業部人事、事業カンパニー本部人事企画、シンガポール(アジア大洋州地域統括本部)人事部門、本社リソースマネジメント、人材開発、人事助成を経て、現在は戦略採用課 課長。長期視点・未来志向で、人材の資質の多様性に着眼した戦略的採用を推進。

名古屋大学大学院 経済学研究科 准教授 江夏 幾多郎氏

2008年、一橋大学大学院商学研究科博士後期課程単位取得退学。2009年、博士(商学;一橋大学)を取得。2008年より名古屋大学大学院経済学研究科。講師を経て、2011年より現職。専攻は人的資源管理論。主な研究テーマとして、「評価・報酬における公正感・納得感の由来」、「人事部門の権限や役割」、「体系的で理に適った人事システム変革の特徴」。著書に『人事評価における「曖昧」と「納得」』(2014年、NHK出版新書)。主な受賞に、第9回経営行動科学学会奨励研究賞、第13回労働関係論文優秀賞。

dodaでは人事・採用担当者の方へ向けたセミナーを
定期的に開催しています。
中途採用をご検討の方はお気軽にお問い合わせください。

【セミナーレポート】ダイバーシティを実現するためのHRアナリティクス~イノベーション文化に変革するために~ページです。【中途採用をお考えの法人様へ】dodaサービスのご案内 - 採用成功への扉を開く、総合採用支援サービス

お問い合わせ・
資料請求

フリーダイヤル、Webのどちらからでもお問い合わせいただけます。お気軽にご連絡ください。

0120-339-494

(受付時間 平日9:00 〜 18:00)