【セミナーレポート】採用学〜理論と実践、サイボウズ社の事例から学ぶ〜

セミナーレポート

【セミナーレポート】採用学<br>〜理論と実践、サイボウズ社の事例から学ぶ〜

2019.03.05

セミナーレポート

 人材の採用に関して科学的なアプローチを行う「採用学」は、採用競争の激化、採用活動の在り方そのものの見直しの議論とも相まって、近年注目を集めています。福岡県では企業誘致の促進や創業支援事業の加速が進み、今後さらに他社と差別化された採用活動が企業に求められているといえます。
こうした採用の課題に向き合うために、パーソルキャリアは2月19日「採用学〜理論と実践、サイボウズ社の事例から学ぶ〜」と題したセミナーを、福岡市中央区にあるアクロス福岡にて開催しました。講師として登壇したのは、「日本企業における組織と個人の関わり合い」をコアテーマに採用や育成、評価などの人事管理に関する諸研究に従事する、神戸大学大学院 経営学研究科 准教授 服部泰宏氏。そして、「働きがいのある会社ランキング」への5年連続ランクインや日本の人事部「HRアワード」受賞など注目を集めているサイボウズ株式会社にて人事本部 部長を務める青野誠氏。会場には、企業のリーダーや人事企画担当者などが集い、これからの採用活動について活発な議論を行いました。

「人材の多様性をとらえる視点」/服部先生

組織と個人の重要性、「心理的契約」とは

「今日は採用について、経営学的な視点から「採用や雇用の枠組み」と「多様性」についてお話ししたいと思います。サイボウズの青野氏にお話しいただく採用方法は、採用・雇用において本来あるべき姿のはずだと思っています。しかし、一方でこの取り組みが日本の最新事例になっているという現状は、いかに大半の組織が乖離してきたか、無理をしてきたのかという気づきにも繋がるでしょう。新たな発想を大切に、雇用問題を考えていきたいと思います。」と冒頭に挨拶をする服部先生。

まず、日本ではメジャーである長期雇用、終身雇用における「組織と個人」の関係性の問題に触れました。その上で次世代の採用・雇用を考えるにあたり、働くことの根底にあるコアの部分を考えるべき段階にきているのではないかと問題提起。施策や制度など表層部だけが変わっていくと、働く側には朝令暮改に見え、会社との相互理解ができずにズレが生じます。「そこでもう一度、会社と社員の関係性に立ち返って考えようという投げかけが企業には必要です。」と服部先生は語ります。そして組織と個人の場合、考え方の相違が生じないように、責任の所在が明確にすることを「心理的契約」と定義。お互い納得のいく形でクリアにすることは、決しておろそかにしてはいけないと参加者に訴えました。

「多様な働き方が」がもたらす、心理的契約の顕在化

現在「心理的契約」は世界的にも注目されており、アメリカの企業では心理的計画の部分を明確にし、文書化に向けて取り組みを始める企業も増加。福利厚生や給与の面では明確化されている企業も多いが、育成や評価などのソフトなエリアや言葉にしにくいエリアほど擦り合わせが必要だとしており、制度を作ろうとするのではなく、コミュニケーションが大切だと議論されているようです。「心理的契約」は非常に主観的であるため、コミュニケーションがきちんと取れていないと、社員は人事制度や経営者の発言などから状況を推測するしかなく、暗黙にしておくと知らぬ間に「心理的契約」が成立してしまっている可能性もあります。

この問題について、服部先生は「日本型人事管理の大前提に「無限定社員」がある」と説明。今まで日本の多くの企業が、従来の人事が前提とする社員モデルを「無限定性社員」とし、時間・空間・キャリアなどに制限が何もない彼らをデフォルトとしてきました。しかし、近年問題とされている、産休・育休や介護の問題は今も昔ももちろん存在しており、まるで制約がないかのように対応できていたのは、個人や家族側の犠牲があってこそ。それを踏まえると、近年のように多様化を求めることは、人々が働く上で最も自然な流れになりつつあると言えるでしょう。

求められるエントリー、メンテナンス、そしてエグジット・マネジメント

今までの説明を踏まえ、「人材の多様化」が日本企業に対して持つ意味は重大と言えます。人材不足を解消するためには、避けて通れない「人材の多様化」をいつ、誰が、どのようにしてマネジメントに取り組むべきなのかを参加者に問いかける服部先生。
顕在化した「心理的契約」を把握した上で、「人材の多様性」の実現に向けた2つのマネジメントを紹介。採用前にお互いの希望を共有する「エントリー・マネジメント」と妊娠出産など未確定な問題に対して都度対応をする「メンテナンス・マネジメント」は採用において必要なコミュニケーションだと言及。加えて、今後は退職のあり方を見つめ、「エグジット・マネジメント」の重要性についても示しました。

さらにこのマネジメントの実現に向け、それぞれの立場を踏まえた3つの取り組みを提案。人事が会社全体に向け枠組みを作る「マクロマネジメント(枠組みによる管理)」、各現場でのメンテナンスをおこなう「ミクロマネジメント(対人影響による管理)」、そして社員が自分をマネジメントする「セルフマネジメント(自身による管理)」という、3つのマネジメントを三位一体として、誰がどう責任を取るかの線引きをする必要性を強調しました。

最後に服部先生は「育休・産休の問題に関しても、自分自身で取り組めること、上司がサポートできること、人事が枠組みを提示できることもあります。それぞれの立場で問題に取り組むことで、「多様性」に対応出来る組織ができると思っています。」と語り、参加者にエールを送って講義を終えました。

チームワークあふれる会社を創る/青野氏

サイボウズの働き方改革

服部先生の講義を受けて登壇したのは、サイボウズ株式会社の青野氏。サイボウズ社は、グループウェアの開発・販売・運用を手がける企業として1997年に創業。近年ではソフトウェアの開発を通して培ったノウハウを活かした人事コンサルとしてメソッド事業を展開しています。青野氏は「服部先生のお話には、私たちの採用に通じる部分や、今までやってきたことが正解だったのかなと思える部分もあり嬉しいです。採用だけではなく、どのような組織を作ってきたのか、という部分含めて今日はお話しします。」と挨拶しました。

まず青野氏は、サイボウズの働き方改革をテーマに、「100人いれば100通りの人事制度があってよい」という人事方針について語りました。創業時3名からスタートしたサイボウズ社は、現在国内外に支社を構え、約800人の社員が活躍しています。しかし2005年には離職率が28%に到達。それを機に人事制度の見直しを開始し、以降社員一人ひとりの望む働き方や報酬を実現すべく、公平性よりも個性を重んじた人事制度を追求してきました。近年「多様性がない」と考える企業が増え、ダイバーシティ経営が進められている中で、「すでに十分多様なメンバーが集まっている」と考えるその姿こそ、服部先生が語る最先端の理由です。サイボウズ社では、世代や性別、ライフワークによって、それぞれ前提が異なる中で、それぞれのいいところを活かしていく方法を選択。それと同時にみんなが公平にはならないということも社員にはしっかりと伝えているそうです。「制度ありきではなく、1人ひとりの希望に対して、それをクリアにするための手段としての制度が必要なのではないかと考えた」と青野氏。また以前は会社側がキャリアプランを提案していたところを、「キャリアに正解はない」として、自分自身でキャリアを考える仕組みに変えていきました。

そして、他にも自社サービス「kintone」を使い、異動の希望を全社公開で宣言する取り組み「Myキャリ」や副業の解禁、オフィスのリニューアルなど様々な取り組みをおこなってきました。その結果、2005年には28%だった離職率が、2018年には4%を水準に安定。さらに働きやすさの向上が生産性アップに繋がり、売り上げも上昇するという好循環が実現できたそうです。

新たに定めた「共感×スキル」という採用基準

次に青野氏が採用に携わり始めたころから、現在に至るまでの採用活動について紹介しました。
数年前までは、多くの企業同様に大手ナビサイトを使い、説明会を年に80〜100回ほど開催。しかし、このパターンでの採用活動の限界を感じて、アプローチの変更を決意。インターンシップやSNSの活用、自社オウンドメディア「サイボウズ式」など、独自の方法での採用活動をスタートしました。「情報発信をする最大の理由は、様々な角度から会社の理念や哲学、働く社員を紹介することで、「共感」するポイントを見つけてもらうことである」と青野氏は説明。「100人100通り」という人事方針をおこなっているからこそ、企業の取り組みに共感してもらうことが重要だとし、通常の説明会だけでなくお酒を飲みながらフラットに交流する「キャリアBAR」など、リアルな情報提供の機会も用意。その上で、「本人のやりたいこと」と「会社が目指していること」が重なっている人を採用したいとしています。さらに自社のエントリーフォームには、「サイボウズに共感している理由」を問う項目も設け、エントリーの段階でフィルタリングをおこなうことで、さらに質の高い人材の確保に繋がっているようです。

そして最後にキャリア採用に関する取り組みも紹介。新卒のタイミングを逃した29歳以下の人材に向けた「U-29(ユニーク)採用」や子育てでブランクのある女性を1ヶ月間インターンとして迎える「キャリアママインターン」、副業の入り口の役割を果たす「副業採用」など、その取り組みは幅広い世代に向けられ、まさに多様性のモデルケースそのものです。青野氏は「人事や採用はとても大変だが、一方で、候補者の方の未来を決めることにもなる重要なポジション。これからもよりよい採用活動を探求していきたい。」とプレゼンテーションを締めくくりました。

服部先生と青野氏によるパネルディスカッション

プレゼンテーションを踏まえたセッション、そしてグループディスカッション

服部先生、青野氏それぞれのプレゼンテーションが終わると、続いてパネルディスカッションへ。
今回登壇前の打ち合わせをせずにそれぞれのディスカッションに挑んだとのことでしたが、内容に共通部分も多く驚いたと語るお二人。
HRの観点から見ると、「共感」というキーワードは世界的に注目されているようで、服部先生は去年ヨーロッパ視察の際に立ち寄ったBMW社での人事とのエピソードを披露。AIの技術なども進化していくが、今後人事が何を大切にする必要があるかと尋ねたら、「エンパシー」(=共感)という答えが返ってきたと語る服部先生。さらに「共感」には、浅いものと深いものがあるとし、それに対して青野氏も「サイボウズの入社を希望する人たちも、ひとつのことだけに共感してエントリーをしてくることはないと考えていて、実務的な部分と哲学的な部分の両方に共感している人を採用するようにしている」と採用する際のポイントに触れました。

セッションの途中、服部先生から「サイボウズのような先端的な事例を聞くと私たちは思考停止に陥ることがある。知名度のある会社だからできるという部分ももちろんあるが、メンバーはすでに多様であるという考え方はどこの会社でもできる大事な考え方。事例に触れるときには、状況と原理という2つの要素に見方を分解して欲しい」と参加者に語りかける場面もありました。

さらに話題は「セルフマネジメント」について。服部先生は自立している人材の確保の仕方は最初から自立している人を採用する方法と、採用してから自立するよう育てる方法の2種類があるとし、サイボウズの場合どのようなにアプローチをしているかを尋ねました。それに対し青野氏は「個人的にサイボウズは自分がどうしたいのか選択する機会が多いと感じています。自由度が高いということは、逆に何も用意されていないので、どうしたら自分が幸せになれるかを考えて、日々自己決定をしていかねばなりません。その経験が自信となり、自立心が育っていると考えています。」と説明。この状況は人事にも共通するとし、「今までは尖った人材からの応募はないと思っていましたが、そうではなく応募があっても対応できないという理由で不採用にしていました。しかし、すでに社内にいる人材の個性に向き合った瞬間、意外と多様な人材のマネジメントができていることに気がつき、人事も個性ある人の採用に自信がつきました」と語りました。

服部先生と青野氏のパネルディスカッションのあと、会場ではグループディスカッションを実施。その後、参加者を交えた質疑応答を行いました。さらにセミナー終了後には登壇者を含めた懇親会を行い、これからの採用活動について議論を深めていきました。

 

まとめ

「採用学」という言葉から、アカデミックな視点で採用を捉えるとはどういうことなのだろうと大変興味深い印象を持った今回のセミナー。学術的な考察をもとに展開されていく「人材の多様性」というテーマは、今までの日本企業における採用、雇用問題といまいちど向き合うために欠かせないキーワードなのだと思いました。これからの時代に必要とされる「心理的契約」は、多様な人材が安心して働ける新たな価値基準となるに違いありません。また、すでに「人材の多様性」を体現化しているサイボウズ社の取り組みは、集まった参加者にとっても大変貴重な情報だったと思います。社員一人ひとりのバックグラウンドに耳を傾け、それぞれにあった人事制度を追求することは一見ハードルの高いことのように感じますが、組織と個人がマッチングしたときの多幸感は、双方とも高いのではないでしょうか。

講師プロフィール

神戸大学大学院 経営学研究科 准教授 服部 泰宏 氏

滋賀大学経済学部准教授、横浜国立大学経営学部准教授を経て、現職。 「日本企業における組織と個人の関わり合い」をコアテーマに、採用や育成、評価などの人事管理に関わる諸研究に従事。 近年は、北米やヨーロッパ、ASEANにおけるグローバル企業の人事管理に関する研究、企業の中で突出した成果をあげる「スター社員」に関する研究などにも従事。 2010年に組織学会高宮賞、2014年に人材育成学会賞、2016年に日本の人事部HRアワードを受賞。

サイボウズ株式会社 人事本部 部長 青野誠氏

2006年早稲田大学理工学部情報学科卒業後、サイボウズ株式会社に新卒で入社。営業やマーケティング、新規事業「かんたんSaaS」や「KUNAI」の事業立ち上げなどを経験後に人事部へ。現在は採用、人材育成、制度企画などを担当。2016年よりNPO法人フローレンスやベンチャー企業の人事部門で複業中。自ら多様な働き方を実践している。

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